機動六課。それはロスト・ロギア専門の特殊部隊で、構成人員が管理局のトップエースクラスで構成されており、Sランクの魔導師がメインで他の部署に比べれば突出した戦力を持つ。
八神はやて特別捜査官をトップに置き、スターズ分隊とライトニング分隊がその下にあるのだが、スターズ分隊は管理局のエースである高町なのは教導官、ライトニング分隊はフェイト=T=ハラオウン執務官を隊長とし、新人の育成もかねて六課は組織された。
また、聖王教会のバックアップもあり、よちよち歩きの赤子の様に少しずつ基礎を固めて行った。
無論、組織するに至って八神はやては裏で汚い事をしていたらしい。
らしいと言うことなので、事実であるかは不明だ。
そんな六課を組織した八神はやてが、廊下を歩いている。向かう先は食堂で、真剣な顔をしている。
食堂の前に立つと、大きく息を吸って食堂のドアを開けて中に入っていった。
中に入ると、食堂の調理場へとむかい、中に居る人物に声をかけた。
「なあなあ、おとーさん。ちょっとえぇ?」
調理場で仕込みを行っている白髪に褐色の肌の人物……衛宮士郎に声をかけた。
衛宮は女性の声に反応し、手を止める事なく答えて来た。
「見ての通り仕込み中なのだが……問題はない」
「ほんなら丁度えぇわ。小耳にはさんだんやけど……シグナムを口説いてるってホンマなん?」
「……なぜ、いきなりそんな質問を?」
「いや、ほら、おとーさん言うたら食堂のコックさんが板についてるやん?」
「はやて、その話は誰が発生源なのかね?」
「さぁ……ウチもよう知らんのよ。気ぃ付いたらそんな噂が流れとってシグナムに聞いてみたんやけど、顔を真っ赤にしながらな『戦うしか脳がない私などが釣り合うはずもありません』って否定すんねん!ほんで、怪し過ぎるから衛宮さんに聞きにきてん」
「なるほど、彼女らしい返答だな」
士郎は苦笑しながら、手を止めた。包丁を置いて刻んでいたキャベツをざるに盛ると、背後のテーブルに向き返り急須を手に取った。
次に手にしたのはお茶の葉が入った缶で、蓋を開けて茶葉を急須に適量入れるとお湯を注ぎ、エプロンを外して二つの湯飲みと急須を持って調理場から出て来た。
近くのテーブルの前に立つと湯飲みを置いてお茶を注いだ。
はやてを促して座らせると、彼女の前に湯飲みを移動させて、はやての対面の椅子に腰を下ろすと大きなため息を着いた。
はやてはため息を着いた衛宮を見つめる。
褐色の肌に真っ白な髪は到底日本人とは思えない容姿だが、彼の話す日本語のイントネーションは正しいものである。
話によれば、世界中の紛争地帯を渡り歩き、戦火に見舞われた人々の為に奔走したらしい。
他にも色々と聞いたのだが、時空管理局によれば異世界では無く、平行世界の人間であるらしい。
俗に言うパラレルワールド、と言うもので無限にあるもしもの世界である。
彼自身、過去の事を話そうとはしないしあまり話したがらない。
平行世界を渡るのだから、元居た世界では余程の事があったのだろう。
彼との出会いはまだ幼かった頃……闇の書の一件で、人の良いお兄さんと言う感じだった。
あれから十年。衛宮はあまり変わっておらず、出会った当時のままと言っても過言ではなく、彼がもう三十を過ぎている、と言って周囲の妙齢の女性職員に肌のケアをしているのかどうかの質問攻めにあっていたのは半年ほど前の話だ。
はやては、楽しい日々を思い出しながら、口を開いた。
「シグナムはほら、守護騎士や言うだけあって強いやん、そのシグナムが背中を任せられる言うてんのおとーさんだけなんやで?」
「彼女がそんな事を言っていたのか……それは身に余る光栄だな」
「もぅ、話はぐらかしたらあかんで!実際のところ、おとーさんはシグナムのことどう思うとるん?」
「話をはぐらかした覚えは無いのだがな。……彼女には失礼だが、私は愛した人の面影を彼女に重ねてしまっている」
「え、それって、恋人とか居んの?!」
「あぁ、誤解しているようだが私に恋人は居ないよ。ただ、彼女の真っすぐな瞳が、纏う空気が、気高い誇りが、高潔な魂がよく似ているんだ……私が愛した人に」
「愛した……って事は元居た世界におるん?」
「いや、そうではない。彼女はもう……この世に居ないだけだ」
「あ、ごめん!うち、聞いたあかんこと聞いてもうたわ」
「構わんよ、彼女への未練は既にない。それに……いや、なんでもない」
士郎がほんの一瞬だけ見せた悲しげな顔を、はやては見逃さなかった。
それ以上は聞いてはイケないと思う半面、士郎が愛したという女性について興味がある。
「……気になっている、という顔だぞ?」
苦笑しながら、士郎が告げた。
しまった、と思うも士郎は尚も言葉を発した。
「聞きたいなら特別に話してあげよう。後、そこで聞き耳をたてている冥王と憐れな下僕達、出てきたまえ」
「……一つ聞きたいんやけど、冥王って誰なん?」
「あぁ、そのことか。模擬戦で容赦無く部下を叩きのめした管理局の白い悪魔事スターズ分隊の隊長に決まっているだろう?」
その後に、何を言うかと思えば、と呟きながらニヒルな笑みを浮かべた衛宮の一言にみんなが黙り込む。納得できすぎて、逆に何も言えないのだ。
管理局の白い悪魔、とは良く言ったもので、先日の一件で悪魔から冥王に格上げされたのだ。
無論そう呼ぶ者は居ないが、彼……衛宮士郎だけは、本人を目の前にしても言い切る事が出来る人物なのだ。
「衛宮さん、後ろ後ろ!」
「知っている。なのはが居るのだろう?事実を認めず力を持って無理矢理黙らせる、何処ぞの大国みたいな発想とは思わないかね?それに、せっかく話そうとしたことを二度と話さなくなるだろうな」
「なのは、ダメ。抑えて!」
「そうですよ!衛宮さんの恋話を聞ける滅多とないチャンスなんですよ?!」
フェイトがなのはを宥めている横で、シャーリーが叫んでいた。
よくよく見てみれば、ヴィータにシャマル、スバル、ティアナ、ギンガにヴィヴィオまで居るではないか。
衛宮は苦笑すると立ち上がり、調理場へと消えていった。
程なくして、衛宮は人数分のお茶を入れて戻って来た。
ヴィヴィオには搾りたてのオレンジジュースを渡し、再び腰を下ろした。
「さて、どこから話したものか……」
「そら、馴れ初めとか話さなあか でー?」
「うんうん。それについては私も興味があるわ」
「馴れ初め……か」
「そういえば衛宮さんの事ってあんまり知りませんね、私たち」
「ならいっそ、洗いざらいはいてもらおうぜ」
「過去……か。聞いていて気持ちのいい話ではないぞ?」
衛宮の顔が険しいものとなり、忠告を発する。
誰もが目を輝かせ、衛宮の言葉を待つ。
一瞬の逡巡。衛宮は意を決した様な顔を見せた後、ゆっくりと語り始めた。
彼が言葉にし語るのは、誰もが知らぬ彼の過去。
始まりは炎の中だった。
大火事で全て失った。奇跡的に助けられたが、燃え盛る業火の中で地獄を見た。
生きたまま炎に焼かれ、苦しみの声を発する人々。
助けを求める声に目を背け、目を逸らし、耳を塞ぎ歩き続ける。
語り出した衛宮の話が予想以上にヘヴィな話だったため、シャマルがヴィヴィオを連れて出ていった。衛宮はシャマルが戻ってくるまでなにも語らなかった。更にいえば、なのは達も誰ひとりとして喋らなかった。
シャマルが戻って来て、衛宮は再び語り出した。
命を救われ、新たな家族を得た数年後に、養父は死んだ。
父の語る綺麗事を受け継ぐと決めた。彼が歪みはじめた。
呪いにも似た縛りは、彼を狂気の道を走らせる事に気付かない。
「以上が、覚えている限りで一番古い過去の記憶だ」
「なんや、ものごっつい重い話やなぁ……」
「言ったはずだ、気持ちのいい話ではないと。止めにするかね?」
衛宮の言葉を聞いて全員が、首を横に振ることで答える。
だろうな、小さく呟き語り始める。
私が彼女と出会ったのはある戦争に巻き込まれてね、命を狙われ殺されかけた時に救われた。
月明かりの中に佇む彼女の姿は美しかった。今でも、その時の事は鮮明に覚えている。
戦争に巻き込まれたのは今から二十年近く前の事だったか、当時の私は酷くいびつでね、今の私からでは考えられないほど歪んでいた。
考えてもみたまえ、全てを救うという綺麗言を本当に実現できると信じていたのだからね、しかも不幸な事にそれを正してくれる人はいなかった。
その戦争で私を守ってくれた彼女に対し、女の子がそんな事をしたらダメだ、そう言ったのだからね彼女が激昂するのは当たり前か。
長くなるので少し省略するが、戦争も終わりに近づき最終決戦に赴いた。
戦争を終わらせ、黄金にも似た朝焼けの中での中で告げられた。私を愛している、とね。
私の答えを聞くことなく、逝ってしまったよ。
学園を卒業し、ある団体に所属。以降は紛争地域へと赴いた。
とは言っても私は魔術師見習もいいところでね、協会から目を付けられていた。
後々知ったのだが、私の養父は少々有名でね魔術師殺しと呼ばれ恐れられていた。
そして、とある一件で私はまた殺されかけたのだが、また救われた。吸血姫……アルトルージュ=ブリュンスタッド一派に救われ、何の因果か彼女に気に入られ鍛えられた。
あぁ、それからは毎日が地獄だったね。ゲイでショタの吸血鬼に狙われ、気を抜けば襲い掛かられたからね、必死になって強くなったさ。おっと、話が逸れかけたな。
そして私は魔術を切り札に危険な仕事を請負始めた。
死徒によって死都化した町の完全消滅から、封印指定魔術師の保護まで行った。
それ故に私は異端視された。魔術協会からも聖堂教会からもな。
だが、私はある事がきっかけにより魔術師の極地へとたどり着き封印指定を受けた。
更に運が悪いことに大国の殆どから指名手配を受けた。戦争犯罪者として、な。
それからは逃亡生活が続いたのだが……協会に嗅ぎ付けられてね、抵抗はしたが私に対する戦略を練っていたのだろう。成す術もなく無力化され、死を待つだけだった。
だが、運が良いのか悪いのか、偶然知り合った二人の魔法使いの介入によって救われたのだが、彼等に拉致された。その後は修業と言う名目の下に徹底的に虐められ……あぁいや、アインナッシュの実を取ってくるとか、マスターテリオンと戦ってこいとか無茶苦茶言わないでくれ師匠!
先生と戦って無事でいられる訳無いだろ、あぁっそれはやめてください!
はっ!?いや済まない、二人の事を思い出してトラウマが蘇ってしまったようだ、すまない。
それからまたいろいろあって、師匠によって問答無用で元居た世界からたたき出され、今に至るわけだ。
「その際に、そろそろ良き伴侶を得てお前が幸せになれ。でなければワシと青子がただではすまさん、と言われたのだが……スバルどうしたのかね?」
「うわあぁぁぁぁぁん!」
いきなりスバルが泣きだし、それを合図に一斉に口を開いた。
あーだこーだと一気に騒がしくなり、衛宮は苦笑しつつその光景を眺めている。
ギンガが泣いているスバルを宥めながら、爆弾を落とす。
「スバル、これからは衛宮さんをお義兄さんって呼ぶのよ?」
「あかん!そんなんスバルが許しても、娘のうちが許さへんし、衛宮さんの嫁はシグナムときまっとるんや!!」
「そうね、それは私も認めないわ。それに衛宮さんは私のお義父さんになる人なんだから!」
「……全く。ここにいると退屈しないな」
衛宮は小さく呟くと、苦笑しながらありし日々の楽しかった時間を思い出した。
ギャーギャーと五月蝿くなってきたところで食堂のドアが開き、一人の女性が入って来た。
切れ長の目で瞳は鳶色。纏う空気は凛としており、周囲の人間を引き締めるような空気だ。
食堂に入ると中を見渡しながら、衛宮へと近づいていく。
「衛宮、これは何の騒ぎだ?外まで聞こえてきていたぞ」
「私に言うべき事ではないよ。発端は君の主だ、文句ははやてに言うべきだろう?」
「……あの一件以降元気になられたのはいいが、少し元気が良すぎる」
「確かに、な。それはそうと、騒がしかったから食堂に顔を出したのか、単に空腹だからか、どちらかね?」
「両方だ」
「そうか。なら、なんにする?」
「この新メニューを頼む」
「わかった。出来るまでコレを食べててくれ」
そう言って、席を立つと座るように促した。
近くの椅子に腰を下ろすと、衛宮は手を付けていない茶菓子をシグナムの前に置き、調理場へと入っていった。
静寂が訪れ、シグナムは視線を感じながらも衛宮が差し出したシフォンケーキを口にした。
とたん、食堂内は喧騒に包まれたのだった。
小首を傾げながらも、シグナムはケーキを食べることをやめず、はやてを始めとした六課全員の視線を集めているのに気付き、口を開く。
「……何故、みんな私を見るのだ?」
顔に何か付いてるのか?、と呟くが誰も何も言わない。
黙々とシフォンケーキを食べるシグナムの顔は、自分でも気付かないくらいに緩んでいた。
例えるなら……ツンデレと言えば早いだろう。
「シグナム……おとーさんのケーキが美味しいんはよぅわかるんやけど、頬緩んでるで?」
はやてに言われて気付いたのか、慌てて表情を引き締めるが、時既に遅し。
士郎は厨房で料理を作っており騒がしい食堂は、かつての自宅の様に賑やかだった。
自然と笑みが浮かんでいるのが分かる。
包丁を使い、食材を扱う手つきは軽やかと言えるだろう。
その一方で食堂では衛宮の話で持ちきりだった。口説かれていると言うシグナム本人を前にして、色々と話が盛り上がっていた。
大いに盛り上がっている最中、食堂の扉が開き一人の女性が姿を見せた。
「……なんだか楽しそうな話をしてるわねぇ」
「り、リンディ提督?!」
「元よ、元提督。そんな事より、衛宮さんはいるかしら?」
「ん?あぁ、遊びに着たのか、リンディ」
「えぇ、久しぶりに越させてもらったわ」
「ふむ。紅茶と緑茶、どちらがいいかね?あぁ、緑茶を選んだ場合、ミルクと砂糖は全面的に禁止させてもらうぞ?」
「それじゃあ、紅茶でお願いします」
笑顔で答えると、シグナムの真正面に腰を下ろした。
緊迫した空気が流れる。周囲の認識では、二人はライバルだ。
水と油と言う関係。
シグナムはシフォンケーキを黙々と食べており、リンディへと顔を向けると一言発する。
「やはり、衛宮には複数の女性が必要だと思う。無論、正妻の座を狙ってはいるが……」
「そうね。でも、私は別に愛人でいいわ。あの人の子どもなら、愛情は注げるもの」
「……うむ。それでは、成立だな」
「えぇ。そういうことでいいかしら、ギンガちゃん?」
リンディが答えると同時だろうか、新メニューの乗ったトレーと紅茶とティラミスの乗ったトレーを持った衛宮がやってきた。
トレーを二つ持った衛宮に、視線が集中する。思わず身を固くした衛宮は、何故か逃げろと言う生存本能に従い、トレーを近くのテーブルに置くと食堂の入り口めがけて走り出した。
だが、それを妨害したのは六課チビーズの一人エリオ=モンディアルで、その手にはデバイスではなくナイフが握られている。
表情は悲壮ともいえる顔だった。恐らく、こうなる事を予測していたフェイトの手によるものだと推測し、左足を動かした。
放つのは蹴り。一瞬で強化魔術を行使して子どもであるが、才能と戦闘力は一流であるエリオへと放つ。
その蹴りに反応し、腕で防ぐと同時に蹴りの軌道上へと飛んで威力を軽減し、着地する。
一瞬の交差。勝利したのは衛宮だ。食堂の出口へと向けて、跳んだ。
一歩。反応したのはエリオと、フェイトの二人。高速移動魔法を行使し、衛宮の動きを妨害する。
「何処へ行くんですか、衛宮さん?」
「……ギンガ、すまない。そこをどいてくれ」
「ダ・メ・で・す」
陸戦魔導師の中でも、トップクラスのギンガの言葉に衛宮は絶望を突きつけられ、膝から崩れ落ちた。
彼を包囲する三人の女性。
一人はSランクの空戦魔導師にして、ライトニング小隊副隊長である烈火の将・シグナム。
一人は元次元航行艦アースラの提督だったリンディ=ハラオウン。
一人はAランクの陸戦魔導師で、機動六課隊員スバル=ナカジマの姉であるギンガ=ナカジマ。
窮鼠と呼ぶには強すぎるが、それに類する衛宮はがたがたと震えていた。
ティアナ=ランスターはあの衛宮が恐怖するのだから、どう言う事をされてるんだろう、と思ったとか。
衛宮は逃げ出そうとするが、己のステータスである幸運はDなのだから、逃げれるわけが無かった。
「……退路無し。捕虜として人権の保証確かかね?」
衛宮は混乱している。
なのはは有名ゲームのフレーズを思い出し、苦笑してしまった。
そして、衛宮はたらしと言う称号を得て、男性局員全てを敵に回したと、ここに記しておく。
まぁ、そんな事で書きましたなのは×Fate小説。
微妙のStS時代ですが、まぁ気にするな。
後、はやてがおとーさん呼んでるんはなんとなくでゴザル。
はやての兄ではなく父親的な存在。フェイトにとっても同じである。
なのはにとっては実兄よりも兄をしていると言う困った人、と言う設定で。
うん。書きたいから描いた、それ以上でもそれ以下でも無い。
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